こんにちは、フットボールと色彩を愛するYchanです。
今回は、AZ特集の第2弾!AZ Alkmaarの2025/26シーズンモデルを取り上げます。
今季のNikeとAZは「脱・テンプレート」とも言える極めて挑戦的、いや、ある種「暴力的」なまでにグラフィックに振ったデザインを出しています。ネット上では発表直後から「芸術だ」と崇める声と、「目がチカチカする」という悲鳴が入り乱れています。
この論争、色彩学を齧っている身として黙って見過ごすわけにはいきません。
これは単なるデザインの良し悪しではない。「視認性」と「アイデンティティ」の殴り合いです。
AZの伝統である赤、そして地域性をどう色と形で表現したのか。Home、Away、3rdの3着を、色彩学(PCCS、トーン、配色調和)を駆使して丸裸にしていきます。
【前提知識】サッカーにおける「色の機能」とは?
レビューに入る前に、少しだけ色彩学の授業をしましょう。サッカーのユニフォームを見る目が変わるはずです。
まず、サッカーにおいて色は「識別」以上の機能を持ちます。
- 進出色と後退色
赤やオレンジなどの暖色は「進出色」と呼ばれ、実際よりも手前に迫って見えます。逆に青や黒などの寒色・低明度色は「後退色」で、遠くに見えたり収縮して見えたりします。Homeの赤は、相手DFに対して「圧」を与える機能があるのです。 - 誘目性(ゆうもくせい)
無意識に人の目を引きつける性質のこと。ピッチ上で味方を見つけやすくするためには、この誘目性が高い色が有利とされます(黄色や蛍光色がGKに使われる理由です)。 - 視覚混合(しかくこんごう)
ここが今回のAZの肝です。細かい柄や線は、遠くから見ると色が混ざり合って別の色に見える現象が起きます(点描画の原理)。近くで見た柄の美しさが、スタンドやテレビ画面(遠景)では「ただの濁った色」に見えてしまうリスク。
今季のAZは、この「視覚混合」のリスクとどう戦っているかが最大の見どころです。
Home Kit レビュー:地図という名の「ノイズ」か、誇りか

<引用>AZ Webshopより引用
https://www.az.nl/webshop/p/wedstrijdshirt-thuis-2526
色彩分析:s2(ストロングレッド)の挑戦
まずHomeキット。ベースとなるのは、PCCS(日本色研配色体系)で言うところのs2(ストロングレッド)。彩度が高く、チームの闘争心を煽る典型的な「興奮色」です。
しかし、問題(そして魅力)はこのグラフィックです。アルクマールの街並みを描いた地図が、透かし模様(トーン・オン・トーン)で全面に配置されています。
配色は「カマイユ配色」に近いアプローチです。ベースの赤と、わずかに明度を落とした赤で地図を描くことで、遠目には単色に見えつつ、近景では複雑なテクスチャを感じさせる狙いです。
白の袖口と襟のラインは、高彩度の赤に対して「セパレーション(分離)」の効果を果たしており、全体がボヤけるのを防いでいます。この白がなければ、このユニフォームはただの「赤い塊」になっていたでしょう。
ネットの評判
X(旧Twitter)では賛否が真っ二つです。
- 肯定派:「地元愛を感じる傑作」「スタジアム周辺の地図が胸にあるのはアツい」
- 否定派:「汗染み(Sweat stain)に見える」「遠くから見ると、洗濯に失敗した色あせに見える」
批評:色彩学の視点
近年のNikeは「チームウェア(既製品)」の使い回しと批判されがちでしたが、この地図デザインは明らかにカスタムメイドです。色彩学的にも、s2の赤をベースにしているため、ピッチ上での視認性(誘目性)は担保されています。
否定派の意見も色彩学的には正しい。「空間加法混色」により、地図の線が密集している部分は、遠目に見ると彩度が下がって見えます。つまり、鮮やかな赤であるはずが、ややくすんだ赤(d2など)に見えてしまう瞬間があるのです。
「汗染み」という揶揄は、この「局所的な彩度低下」を人間の目が汚れと認識してしまった結果でしょう。
結論: ピッチ上では「伝統的な赤」として機能し、ファンショップで手に取れば「街の誇り」を感じられる。遠近で異なる顔を見せる、知的なデザインです。
Away Kit レビュー:建築美と「視覚の暴力」の境界線

<引用>AZ Webshopより引用
https://www.az.nl/webshop/p/wedstrijdshirt-uit-2526
色彩分析:ストロングトーンの冒険
続いてAwayキット。こちらは鮮烈なブルーが主役。色相は16:gB(シアンよりの青)あたりでしょうか。トーンはst(ストロング)かb(ブライト)で、明快で爽やかな印象を与えます。
デザインのモチーフは「スタジアム」。自らの家をグラフィカルに落とし込んでおり、ストーリーを感じさせます。
配色は青をベースに、さらに濃い青(dp16)や薄い水色(lt16)を用いた「同一色相配色」。しかし、Homeの「透かし」とは異なり、こちらはコントラストが強めです。スタジアムの鉄骨ラインが縦横無尽に走り、非常に情報量が多い。
ネットの評判
ここは完全に「大喜利状態」になっています。
- 肯定派:「建築的でモダン」「普段着(ストリート)として着たい」
- 否定派:「設計図(Blueprint)を着てどうする」「Windows 95のスクリーンセーバー」「目が回る」
批評:色彩学の視点
色彩学の観点から、ユニフォームとしての機能性には疑問符がつきます。(あくまで机上の空論です。)
これだけ複雑な幾何学模様は、ピッチ上で「カモフラージュ効果」を生んでしまいます。動いている選手同士の輪郭線が、背景の柄に埋没してしまう恐れがあるのです(ダズル迷彩と同じ理屈です)。
特にナイトゲームの照明下では、この青の複雑な明度差がチラつき(ハレーションに近い現象)を起こし、パスの出し手が一瞬判断を迷うノイズになる可能性があります。
しかし、「商品」としては100点です。
デニムに合わせやすい青、話題性抜群のグラフィック。スタジアムに行かないライト層がファッションアイテムとして買うには最高の一着です。「設計図」と揶揄されていますが、今のトレンドである「テックウェア」的な文脈では、むしろそれが褒め言葉になります。
結論: 選手にとっては「見にくい」かもしれないが、Instagramでは「映える」。現代サッカービジネスのジレンマを体現した、確信犯的な一着です。
3rd Kit レビュー:逃げの迷彩か、攻めのステルスか

<引用>FOOTY HEADLINESより引用
https://www.footyheadlines.com/2025/10/az-alkmaar-25-26-third-kit.html
色彩分析:無彩色の美学
最後は3rdキット。Home/Awayの鮮やかさとは対照的に、無彩色(アクロマティック)の世界です。
ベースはBk(黒)からGy-3.5(ダークグレイ)。そこに赤のアクセントカラーが入っています。
デザインはいわゆる「デジタルカモフラージュ」あるいは「コンクリートテクスチャ」。
色彩学的に見ると、無彩色の濃淡だけで構成された配色は「ドミナントトーン配色(ダーク)」に分類されます。全体が暗いトーンで統一されているため、重厚感と高級感(ラグジュアリー)を演出できています。
そこに、AZのブランドカラーである赤をロゴやスポンサーに使用。無彩色の中にある有彩色は、「誘目性」が極めて高くなります。この赤の使い方は教科書通りで非常に美しい。
ネットの評判
ここはサポーターも一息ついているようです。
- 肯定派:「結局こういうのが一番カッコいい」「強そうに見える(ブラックナイト)」
- 否定派:「また迷彩?」「サバゲー(Airsoft)の装備かよ」「Nikeのカタログから選んだだけでは?」
批評:色彩学の視点
HomeとAwayでこれだけ「柄」で遊んだ後だと、この3rdのモノトーンは「視覚的な休息」として機能しています。
批判的な意見にある「サバゲー装備」というのは、まさにカモフラージュ柄の意図通り。しかし、ピッチ上では、黒いユニフォームは選手を実際よりも引き締まって見せ、相手に威圧感を与えます(重量感の錯覚)。
特筆すべきは、赤色のロゴの視認性の高さです。
明度差(黒背景に中明度の赤)はそこまで大きくないものの、彩度対比(無彩色vs高彩度)が効いているため、スポンサーロゴ「AFAS software」やエンブレムが浮き上がって見えます。商業的配慮も完璧です。
結論: 革新性はないが、色彩設計としての完成度は一番高い。「冒険したAwayで失敗した時のための保険」としては、あまりにも優秀なデザインです。
おわりに
2025/26シーズンのAZアルクマールのユニフォームは、まさに「色彩のジェットコースター」でした。
- Home: 伝統色(赤)×地域性(地図)= カマイユ配色の妙
- Away: 現代的(青)× 構造物(スタジアム)= 視覚混合の実験場
- 3rd: 普遍的(黒)× 流行(迷彩)= 無彩色の安定感
色彩学の視点で見ると、今季のNikeとAZは、意図的に「トーン(調子)」を分散させています。
Homeは感情を揺さぶる赤のストロング、Awayは知性を刺激する青のストロング、3rdは品格を表すダーク。3着揃った時のカラーパレットとしてのバランスは完璧です。
ネットでは「設計図だ」「汗染みだ」と散々言われていますが、話題になった時点でメーカーの勝ちです。無難なデザインで無視されるより、議論を呼ぶデザインの方が、色彩が持つ「人の心を動かす力」を使えている証拠だからです。
私はAwayの「スタジアム設計図」を着て、街で”建築家気取り”で歩いてみたいですね。もちろん、迷子にならないようにHomeの地図をポケットに入れて。
※著作権・商標権を侵害している場合は、速やかに対処しますので、ご連絡ください。


コメント